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東京地方裁判所 昭和58年(ワ)11178号 判決

原告

東京都

右代表者知事

鈴木俊一

右訴訟代理人弁護士

髙木伸學

被告

鈴木洋

右訴訟代理人弁護士

鈴木一郎

錦織淳

浅野憲一

高橋耕

笠井治

佐藤博史

黒田純吉

主文

一  被告は、原告に対し、別紙物件目録(二)、(三)各記載の増築部分及び同目録(四)記載の建物をそれぞれ収去して、同目録(一)記載の建物を明け渡せ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第一、二項と同旨

2  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  別紙物件目録(一)記載の建物(以下「本件住宅」という。)は、原告が所有し、管理する都営住宅である。

2  被告は、昭和二七年七月一一日、原告から本件建物を次の条件で使用を許可され、現在まで引き続き入居している。

(一) 使用期限 定めなし

(二) 使用料 当初月額金七〇〇円

(三) 使用料納入場所 原告の住宅局管理部収納課

(四) 使用料納入期限 毎月末日限り

3  被告は、本件住宅に入居後、これに別紙物件目録(二)、(三)各記載の部分を増築し、また同目録(四)記載の物置を設置した。

4  原告は、昭和五五年一〇月ころ、公営住宅法(昭和二六年法律第一九三号、以下「法」という。)二三条の二及び東京都営住宅条例(昭和二六年東京都条例第一一二号、以下「条例」という。)一九条の四の規定に基づき被告の最近二か年間の収入状況を調査し、条例二条六号及び公営住宅法施行令(昭和二六年政令第二四〇号、以下「政令」という。)一条三号の定めるところに従い算出した上、条例一九条の五に基づきその収入月額が次のとおりであると認定した。

昭和五四年度収入月額 金三一万五一〇三円

昭和五五年度収入月額 金三六万四五一三円

5  以上によれば、被告は本件住宅に引き続き五年以上入居しており、かつ最近二か年間引き続き条例一九条の五により認定された収入が政令六条の三及び条例一九条の六の定める基準(政令では月額金二二万六〇〇〇円、条例では月額金三〇万四〇〇〇円)を超え、条例一九条の六にいう高額所得者に当たるので、原告は、被告を高額所得者と認定し、条例一九条の六に基づき、昭和五六年一月二〇日付、同月二二日到達の配達証明郵便による通知書をもつて、被告に対し、高額所得者と認定した旨を通知した。

6  その後原告は、被告に対し、東京都住宅供給公社住宅、日本住宅公団住宅等の優先入居のあつせん案内や低金利住宅建設資金融資制度の説明文を送付するなど、被告が本件住宅を容易に明け渡すことができるよう、法二一条の四及び条例一九条の九に定める相談、指導等を再々行つたが、被告はこれらを拒否した。

7  原告は、昭和五七年一月二七日、条例一九条の七に基づき、東京都都営住宅高額所得者審査会(以下「本件審査会」という。)に被告に対する明渡請求の可否について諮問したところ、同審査会は、同日、被告に対する明渡請求を「可」とする答申をした。

8  そこで、原告は、法二一条の三及び条例一九条の七に基づき、被告に対し、昭和五七年二月四日付内容証明郵便をもつて、昭和五七年八月三一日限りで本件住宅の使用許可を取り消し、同日限りで本件住宅を明け渡すよう通告し、右通告は同月五日被告に到達した。したがつて、被告は本件住宅の使用許可を昭和五七年八月三一日限り取り消されたので、原告に対し本件住宅を明け渡すとともに、条例一八条に基づき、3記載の増築部分及び設置建物を収去し原形に復すべき義務がある。

9  よつて、原告は、被告に対し、前記3の増築部分及び設置建物を収去して本件住宅を明け渡すことを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2のうち、「使用を許可され」とある部分及び(一)は否認し、その余の事実は認める。

被告は本件住宅を原告から賃借したものであり、また賃貸借開始時からおおむね五年後に本件住宅を被告に払い下げる旨約束され、本件住宅での永住を保証されていた。

3  同3の事実は認める。

4  同4は争う。後記被告の主張2(二)記載のとおり、被告の昭和五四年度の収入は扶養親族数三名として計算すべきであり、これによると同年の被告の収入月額は金二九万〇九三六円となり、条例の基準額を下回る。

5  同5のうち、被告が本件住宅に引き続き五年以上入居していること、及び原告主張の日に原告主張の内容の通知が到達したことは認め、その余の事実は否認する。

6  同6について、原告が被告に対し、一定の制度的な説明をしたことは認めるが、その余は否認する。

7  同7の事実は不知。

8  同8のうち、原告主張の通告が原告主張の日に被告に到達したことは認めるが、その余は争う。

9  同9は争う。

三  被告の主張

1  高額所得者明渡請求制度の違憲性

住居の保障は、人間生活における生存維持のために最低限不可欠のものであり、居住権は、憲法二五条の生存権、同法一三条の生命、自由及び幸福追求に対する権利、更には同法二九条に定める財産権の一種として憲法上保障された基本権というべきところ、法二一条の三、政令六条の三、条例一九条の六及び七等により定められたいわゆる高額所得者明渡請求制度(以下「本件制度」という。)は、次のとおり、その立法理由及びその手段のいずれにおいても著しく不合理なものであり、全体として公営住宅の入居者及びその家族の有する右居住権を侵害するものであり、憲法の前記各条に違反する。

(一) 本件制度は、明渡事由を政令並びに条例で定める収入基準にかかしめているが、人の収入ないし所得は本来種々の要因により絶えず変動する不安定なものであつて、右収入基準が配偶者を含む同居親族の所得をも合算することとし、かつ収入基準自体が低額であり、その超過年限をわずか二年間と定めていることと相まつて、いつたん高額所得者の烙印を押された者も容易に低額所得者へと転化しうるものであり、両者の互換性、交替可能性は大きい。このような恣意的、相対的な収入基準を要件とする本件明渡事由により、居住者は居住権保障にとつて不可欠な居住の安定性、継続性を侵害されているのであつて、法制定当初公営住宅の払下げが予定され(制定当時の法二四条一項)、定住が保障されていたことと対比しても、本件制度の明渡事由は極めて不合理である。

(二) 本件制度は、高額所得者が引き続き入居しているため住宅に困窮する低額所得者が多数公営住宅に入居を希望しているにもかかわらず、これが困難になつている状況を改めることをその立法理由としているが、右のような状況の真の原因は、公共住宅政策の貧困による公営住宅の絶対数の不足にあるから、右の立法理由とその手段はそれ自体合理性を欠くものであり、また入居希望者の入居の実現は本件制度による入居者の交替ではなく、公営住宅その他公共住宅の建設、多数存在する公営住宅空家の利用、民間借家に対する公的援助その他住宅政策全般にわたる施策によつて解決されるべきである。

2  形式的要件について

(一) 形式的要件の不明確性

本件制度は、一定期間の、一定の収入基準の超過を要件として明渡義務という重大な不利益を居住者に強制する根拠となるものであるから、その定義概念、算定方法等は、いささかの疑義も生じないよう一義的に明確でなければ違憲、違法の非難を免れないところ、法、政令及び条例はこれらについて明確な定めを置いておらず、原告の運用においても「最近二年間」、「収入」の意義が不明確で、その基準日、収入計算方法、所得合算の対象たる同居親族や諸控除の対象となる扶養親族数の算定時期等について極めて恣意的、不公平な運用が行われている。このような不明確な要件に基づく本件明渡請求は、結局運用違憲ないし違法であるというべきである。

(二) 形式的要件の欠缺

本件制度による高額所得者に対する明渡請求が許容されるためには、高額所得者の要件たる高額の所得を得ていることが、原告による収入認定時点から前記審査会に付議し明渡請求をするまでの間はもちろん、本件のように訴訟が係属するに至つた場合にはその口頭弁論終結時まで存続することが後記の実質的要件と並んで形式的要件としても必要であると解すべきである。

ところで、原告の収入認定実務の運用においては、収入調査の際閲覧した課税台帳に記載された数を機械的、形式的にそのまま基準として収入を算出し、また、所得税法上扶養親族として税額計算をしない場合であつても、その実質において扶養親族とみうる場合は、公営住宅法上の収入計算においては居住者の利益にその実質に従つて計算すべきものとしているところ、昭和五四年度の被告の収入は、「特別区民税・都民税証明書」(乙第一号証)の記載にしたがえば扶養親族数三名として計算すべきであり(その取扱いをしないのは不公平である。)、これによれば、同年の被告の収入月額は二九万〇九三六円であつて、条例の基準額を下回つていたことになるから、本件明渡請求はその形式的要件を欠いている。

そうでないとしても、被告の母鈴木喜美(明治三一年一〇月生)は、昭和三七年六三歳当時脳動脈硬化症、変型性脊椎症等を発病し一五年間東京都豊島区の自宅で療養の後、昭和五二年六月から昭和五五年四月まで板橋区の富士見病院で、引き続き現在まで練馬区の桜台病院で入院加療を受けているが、被告の長兄は茨城県に在住しているため、次男でありかつ近くに居住する被告夫婦が、特に右入院後は実質的に母喜美を扶養している。

3  実質的、手続的要件について

(一) 本制度による高額所得者に対する明渡請求が許容されるためには、法及び条例の制定趣旨・経緯や法案審議の際の付帯決議等から見て、最近二年間引き続いて収入基準を超過する高額収入があるという形式的要件を充足するだけでは足りず、実質的要件というべき居住者の個別的、具体的事情、すなわち、収入基準超過の程度、明渡請求時における基準超過の有無、居住者及びその家族についての死亡、失職、退職等の事情、今後の収入の増減の見込みとその程度、病気、災害その他生計費の支出の増大、家族収入合算や扶養親族の有無とその具体的事情、住宅取得や移転の可能性、居住の経緯と分譲払下約束による定住の期待の有無、程度等の個別的、具体的事情を斟酌することが必要であり、更にこの実質要件の充足を担保するため、手続的には、当該居住者からの事情、異議の申出の聴取及び本件審査会における十分な審査が必要である。そして、右の実質的要件の充足については、本件の口頭弁論終結時まで存続する必要があると解すべきことは、前記形式的要件についてと同様である。

(二) また、公営住宅利用の法律関係は、私法上の賃貸借関係であるから、借家法一条の二による解約制限から自由ではなく、むしろ公営住宅法は一般借家以上の高次の居住権保障を理念としているものと解すべきであるから、法の定める明渡事由に基づく本件制度による明渡請求においても、借家法一条の二の正当事由が具備されていなければならず、この意味からも右(一)の実質的、手続的要件を充足することが必要である。

(三) 被告及びその妻には次の事情があり、これに後記4の事情を加えれば本件明渡請求には実質的、手続的要件がないことが明らかであるから、本件明渡請求は本件制度の運用違憲に当たるか違法であり、許されない。

(1) 被告とその妻喜美子は昭和二四年名古屋で結婚し、昭和二六年就職先を求めて上京し被告の両親宅に身を寄せたが、妻喜美子の肺結核療養の居室がなく別居状態であつたところ、幸い都営住宅入居の抽選に合格し、本件住宅に入居した。入居の際の東京都側の説明では「おめでとうございます。五年たつたらこの住宅は皆さんのものになります。大事に使つてください住宅の修理その他は一切自分でやつてください。」と払下げを約束されたので、被告ら家族は感激し、本件住宅を永住の場と定めた。

(2) 入居当時、本件住宅の周辺はほとんど農地で、未開発、未整備であつた。被告ら居住者は、都側の前記説明を信じ、住宅の改善、補修をすべて自力で行い、団地内及び周辺道路の整備、下水道、井戸、ガス設備等の設置、改善、維持を居住者と周辺住民が協力して行い、地域共同社会の形成に参加してきた。

(3) とくに、被告の妻喜美子は、団地の住環境整備の活動にとどまらず、小児マヒ生ワクチン獲得運動、集会所の設置、学校給食改善、都立高校増設、図書館設置、公的総合病院の設置等の問題について、団地内活動からPTA活動へ、更に練馬区の母親を中心とした全区規模の運動へと発展させ、地域社会の発展と街づくりに具体的に参加してきており、いまや本件住宅とその地域社会から離れ難くなつている。被告ら家族を高額所得者の名の下に本件住宅から追放することは、地域社会に根づく〝生活空間としての住まい〝を破壊し、ひいては地域共同体を破壊するものにほかならない。

(4) 被告の家族の生計は研究者、学者としての被告の収入のみによつて支えられてきたが、その収入は長く低額な状態が続き、近年に至つてようやく若干のゆとりが生じたが、研究者としての出費も必要で、その生活は一貫してつつましいものである。

被告は、現在上智大学工学部物理学科教授であるが、いずれ定年を迎えなければならない老境にある。また、前記のとおり入院中の母を実質上扶養して経済的負担もある。

(5) 被告に対する原告東京都住宅局の事情聴取においては、以上のような被告側の事情を一顧だにせず「大学教授が都営住宅に住んでいて恥かしくないのか」などと暴言を吐くなどとうてい公正な手続といえるものではなかつた。また、本件審査会の審査も極めて短時間かつ形式的に行われたに過ぎず、条例二二条の三にいう「公正を期する」ためのものとは言い難く、手続的要件を充足していない。

4  行政に対する信頼の保護ないし信義則

(一) 公営住宅法の立法趣旨が、居住者の定住を保護し、原則として一定年数経過後の分譲、払下げを予定していたものであることは、同法案及び同法の改正の際の国会審議の過程からも明らかであり、被告を含む当時の入居者は、いずれも原告の担当者から前記のとおり一定年数経過後居住者に払い下げられる旨の説明を受け、これを信じて永住の意思をもつて居住してきた。

(二) ところが、国及び原告は、その後の人口の大都市集中と地価の投機的高騰に対する有効な抑制措置ないし住宅政策をとらず、かえつて従前からの居住者の犠牲において、昭和三四年の法改正により収入超過者明渡努力義務を新設するとともに公営住宅の分譲は「特別の事由があるとき」に制限し、更に昭和四四年の法改正によつて新たに本件高額所得者明渡制度を新設して、被告ら右法改正前からの居住者の分譲への期待を裏切つた。

(三) 昭和三四年法改正による収入超過者明渡努力義務新設の当時は、まだしも「収入超過者は、所定の付加使用料(割増賃料)を納めていただければ、安心して住宅に住んでいられます。決して住宅を追い出されるようなことはありません。」との説明、説得が盛んに行われ、被告もまたこれを信じていた。

(四) 右のとおり、本件住宅入居当時及び収入超過者明渡努力義務導入の時点において国及び行政主体たる原告が被告を含む公営住宅入居者に分譲ないし居住の安定を確約したものである以上、これを信じて入居し、本件建物及びこれを含む地域の住環境に一定の資金と労力を投じてきた被告をはじめとする右法改正前からの居住者の信頼は法的に保護されなければならない(行政上の確約の法理)。また、前記3の実質的、手続的要件の欠缺において述べた被告及び家族の事情とも合わせ、信義則の観点からも、本件明渡請求は許されるべきではない。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1は争う。

2(一)  被告の主張2(一)は否認する。

高額所得者認定の基礎となる「収入認定」は、条例一九条の五第一項に基づき次の要領で行われており、法令上及び原告の運用上何ら不明確さはない。

(1) 収入認定の時期については法令に別段の定めがないが、条例一九条の三に定める収入超過者に対する付加使用料(割増賃料)の徴収開始時期が、東京都営住宅条例施行規則(昭和二七年東京都規則第一六〇号、以下「規則」という。)二〇条により、住宅使用者からの報告期限(毎年六月三〇日)の属する年の一二月からと定められている関係から、事務処理上毎年一〇月末日を収入認定日としている。

(2) 右認定に供される資料は、原則として、引き続き二年以上使用している住宅使用者に対し、法二三条の二、条例一九条の四に基づき毎年の収入報告義務を課し、規則二一条一項により毎年六月三〇日を期限として報告させた報告書及びその添付資料(収入に関する公的証明書)によるものである。

使用者が報告を怠つた場合には、原告が法二三条の二に基づき独自に調査を行い、認定の基礎資料を得、これをもとに収入認定を行うが、その収入資料は、規則二一条二項の源泉徴収票、税務官公署の発行する収入に関する証明書等公的証明書でなければならないこと並びに事務処理の関係上、報告されるべき年の前年(一月一日から一二月三一日)の収入資料であることが通例である。

(3) 右報告ないし調査により得た資料に基づき、その年の一〇月末日を基準日として同日から遡つた過去一年間の収入を認定する。

右認定にかかる収入額及びその収入の収入超過基準の超過の有無等の必要な事項は、原告において認定後速やかに住宅使用者に通知する(条例一九条の五第一項)。

そして、右通知された収入額等について住宅使用者において意見を述べる機会が与えられ(条例一九条の五第二項)、意見が提出されればその内容を審査し、必要に応じその収入認定額を改定する(同第三項)。

このように、収入認定時期と認定の基礎となる収入資料の時期に通常間隔があるため、条例は、住宅使用者に訂正申出の機会を与えて収入認定の公正を担保しているのであり、右意見の陳述がない限り、先の収入認定額をもつて、その年の一〇月末日以降、同日から遡る過去一年間の収入額として確定するのである。

(4) 被告は、前記報告義務を怠つたため、原告が独自に調査して得た資料(練馬区の課税台帳、住民票等)に基づき、昭和五四、五五年度について収入認定をし、収入額等について通知をしたが、被告からは何ら意見、異議等の申出がなかつたため、右両年度の収入認定月額は請求原因4記載のとおり確定しているのである。

(二)  被告の主張2(二)のうち、扶養親族に関する収入認定実務の運用が被告主張のようなものであることについては否認し、被告の母親の状況及びその扶養に関する状況は不知。その余の主張は争う。

昭和五四年度及び昭和五五年度における被告の扶養控除対象者は、配偶者の鈴木喜美子及び扶養親族の二女鈴木由里の二名である。被告には長女鈴木万里がいるが、同女は昭和五一年四月一日神奈川県横浜市に転出しており、かつ、昭和五三年並びに昭和五四年において控除対象扶養親族の要件(政令一条三号イ)を超える収入があるため、控除対象扶養親族には該当しない。

なお、「昭和五四年度特別区民税、都民税証明書」(乙第一号証)には、扶養親族が三名とされているが昭和五四年度の収入認定において被告に高額所得者に該当する収入があつたことから原告住宅局担当課において調査したところ、長女万里の転出の事実及び収入取得の事実が判明し、控除対象扶養親族に該当しないことが明白となつたため、これを除いて被告の収入認定をしたものである。

3  被告の主張3(一)及び(二)は争い、同3(三)の(1)ないし(4)は不知、同3(三)の(5)は否認する。

4  被告の主張4のうち、被告の入居当時及び昭和三四年の法改正による収入超過者明渡努力義務導入のころ原告の担当者が本件住宅の払下げ又は居住の安定(明渡請求をしないこと)を確約したとの点は否認し、その余はすべて争う。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

第一請求原因について

一請求原因1の事実並びに同2のうち「使用を許可され」とある部分及び使用期限の点を除いては当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、被告は、昭和二七年七月一一日に、条例三条、八条及び規則八条に基づき、本件建物につき使用期限の定めがない条件で使用を許可されたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

二請求原因3の事実は、当事者間に争いがない。

三請求原因4について判断するに、〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められる。

原告は、昭和五五年一〇月ころ、条例一九条の四及び規則二一条に基づき都営住宅を引き続き二年以上使用している使用者が毎年六月三〇日までに提出を求められている収入に関する報告者が被告から提出されないため、条例一九条の四の規定に基づき被告の最近二年間の収入状況について練馬区の特別区民税、都民税の課税台帳の閲覧、被告の住民票及び管理台帳との照合等により調査し、被告の昭和五三年及び昭和五四年の所得税に係る収入を基準として条例二条六号、政令一条三号、地方税法三二条並びに所得税法第二編第二章第一節から第三節までの例に準じて計算し、昭和五四年及び昭和五五年の各一〇月末日現在における控除対象配偶者(妻喜美子)と同居親族(二女由里)を、それぞれ右の二名と認定した上、昭和五三年度については所得金四三六万一二四〇円、同居、扶養控除(一人年額二九万円)後の収入月額を三一万五一〇三円と、昭和五四年度については所得金四九五万四一六五円、同居、扶養控除(前同額)後の収入月額を三六万四五一三円とそれぞれ算出し、昭和五五年一〇月下旬ころ、条例一九条の五に基づき被告の昭和五四年度の収入月額を右昭和五三年度の所得税にかかる収入を基準として算出される右収入月額と同額とまた、被告の昭和五五年度の収入月額を右昭和五四年度の所得税にかかる収入を基準として算出される右収入月額と同額とそれぞれ認定した。

被告は、昭和五四年度の収入月額については、控除対象扶養者を、妻及び二女由里のほか長女万里の三人として計算すべきであると主張し、〈証拠〉によれば、昭和五四年度の特別区民税、都民税証明書(乙第一号証)には扶養家族数三名の記載があり、原告の担当者も昭和五四年度の課税台帳の閲覧により(同年一月一日現在で)扶養家族数三名の記載があつたことを確認したことが認められる。

しかしながら、〈証拠〉によれば、原告の収入認定の基礎となる所得税法及び扶養親族数は、毎年の収入認定日(一〇月末日)現在の所得税法及び扶養親族数によつているものと認められるところ、〈証拠〉によれば、被告の長女万里(昭和二五年一〇月一二日生)は、昭和五一年四月に被告の住居から横浜市緑区に転出して独立し、就職したが、昭和五二年四月から昭和五三年三月までいつたん退職して玉川学園に入学し、この間一年間引き続き横浜市に居住して被告と別居のまま被告の扶養家族となつたことがあるが、昭和五四年一〇月の認定時点では、政令一条三号所掲の控除対象扶養親族に該当しないことが明らかであり、原告の担当者は、課税台帳の扶養家族数三名の記載にかかわらず、住民票等により長女万里を控除対象親族と認定しなかつたものと認められるから、被告の右主張は失当である。

また、被告は、その母喜美(明治三一年一〇月生)を実質的に扶養していると主張し、〈証拠〉によれば、被告の母喜美は、豊島区においてその夫(被告の父)と同居していたところ、昭和三七年六三歳のころ発病し、約一五年間自宅療養の後、昭和五二年から昭和五五年四月まで脳動脈硬化症変型性脊椎症等により板橋区の富士見病院で、引き続き練馬区の桜台病院に転院して入院加療中であるが、被告の兄は茨城県在住であり、被告の姉は中野区に居住しているが見舞程度であり、右昭和五二年の入院後は主として被告の妻が入院、転院の世話、看護の手伝等に当たり、付添婦の費用の一部や見舞品の差入れなどで若干の経済的負担もしていることが認められる。しかし、〈証拠〉によつても、昭和五八年一月被告の父が九一歳で死亡するまでは、被告の母の扶助は夫たる被告の父がこれを行い、ただ父が老齢でもあるため、被告夫婦が父を手伝つて入院中の母の世話をある程度してきたという立場であり、被告は本件住宅入居後は母の入院前後を通じて父母と同居したこともないというのであるから、被告の母が昭和五四、五五年当時政令一条三号イ、ロ、ハ、ニ各所定の控除対象者に該当しないことは明らかである。したがつて、被告の右の主張も失当である。

更に、被告は、原告の収入認定実務の運用においては、入居者の利益のため、扶養親族数については地方税の課税台帳や公的収入証明書に記載のある数に従つて認定し、また所得税法上の扶養親族(同法二条一項三四号)に該当しない場合であつても実質上扶養親族とみうる場合にはこれを扶養親族として取り扱い、控除対象にしているから、長女万里又は母喜美について控除対象親族と認定すべきであつたし、これをしないのは不公平であると主張する。なるほど、昭和五四年度の「特別区民税・都民税証明書」及び地方税の課税台帳には、扶養家族数として「三名」の記載があることは前認定のとおりであるが、昭和五四年一〇月の収入認定時期においては長女万里が政令一条三号イの同居親族でもなく扶養親族でもなかつたことは前認定のとおりであり、被告の母についても、前認定の事実関係によれば、実質的にみてもこれを右時点において扶養親族と見ることは無理である。もつとも、〈証拠〉によれば、原告の収入認定実務において、入居者提出の収入報告書の記載と添付の源泉徴収票等とで扶養親族数にくいちがいがある場合、通常本人の利益に収入報告書の記載を信用して処理すること、所得税法上扶養親族に該当しない者を収入計算上扶養親族扱いにしてほしいとの収入報告書による申出を受け入れ、そのような扱いにした例があること、課税台帳調査による場合はその扶養家族数の記載に従つて計算し、住民票等他の資料との照合、確認は通常していないことが窺われるが、これらは都営住宅使用者から収入報告がされた場合の取扱いであるか、又は、収入報告がなく課税台帳調査による場合に住民票等他の客観的資料との照合をしないのが通常であるとしてもそれは主として大量処理の要請からそれをすることが実際上困難であるにすぎないことが、右乙号各証から認められるのであり、原告の収入認定の実務において、収入報告がない場合に被告主張のような取扱いが一般に行われていることを認めるに足りる証拠はない。そして、〈証拠〉によれば、被告は東京都公営住宅払下連合会に参加しており(実際の活動は被告の妻が行つている。)、住宅明渡請求につながる収入報告を東京都が住宅使用者に求めるのはおかしいとの同連合会の考え方に従つて、昭和五三年より以前から収入超過者に対する付加使用料(割増賃料)は支払いながら収入報告はしておらず、本件の後記収入認定通知に対しても、前記課税証明書を提出したわけでなく、長女又は母の扶養親族の認定について意見、希望を出したこともないことが認められ、長女及び母の生活状況に関する前認定の事実に照らしても、同女らを扶養親族と認めなかつた原告の取扱いが違法であるとか不公平であるとはいえない。

四右認定の事実及び〈証拠〉によれば、原告は、請求原因5記載のとおり、被告が本件住宅に引き続き五年以上入居しており(この点は、当事者間に争いがない。)、かつ、昭和五五年一〇月末日から最近の過去二年間(昭和五四年度及び昭和五五年度)引き続き、条例一九条の五により認定した収入が政令六条の三及び条例一九条の六の定める基準(政令では月額二二万六〇〇〇円、条例では月額三〇万四〇〇〇円)を超え、条例一九条の六に定める高額所得者の要件を充たすことになつたので、被告を高額所得者と認定し、昭和五六年一月二〇日付、同月二二日到達の配達証明郵便による通知書をもつて、被告に対しその旨通知したこと(この内容の通知の到達については、当事者間に争いがない。)が認められ、他にこの認定に反する証拠はない。

五〈証拠〉を総合すれば、以下の事実が認められ、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

原告は、被告に対し、右四で認定した高額所得者認定の通知と共に、高額所得者認定ないし本件制度についての説明、住宅明渡し相談書の提出についての説明等を記載した説明書、住宅明渡しについての被告の希望、意見等を把握するための都営住宅明渡相談書、収入認定後の収入の変動や扶養親族の異動等により所得が政令及び条例で定める基準以下となつた者に条例一九条の五第二項、第四項の意見申出や再認定請求の機会を与えるため提出期限を定めた高額所得者認定に対する意見申出書及び高額所得者収入再認定請求書を送付したが、被告からは意見の申出も再認定の請求もなかつた。しかし、昭和五六年三月二六日の相談指定日に被告の妻が出頭し、原告の担当者に対し、本件住宅入居当時住宅払下げの話があつたこと、前年に被告の歯の治療費として八〇万円ほど要したこと、研究者である被告には研究費の支出が多いことなどを訴え、明渡しに応じられない意向を示した。これに対し、原告の担当者は、そのような事情は明渡猶予の理由にならないとして同年七月末日までに明渡方法についての計画書を出すよう求め、法二一条の四及び条例一九条の九に基づく被告の明渡しを容易にするための措置として、同年四月三〇日公社空家のしおりを、同年六月一七日東京都の低利融資制度のしおりを、同年九月一六日公社空家のしおりを、同月三〇日公団分譲のしおりを、同年一〇月三〇日東京都の第二次融資のしおりをそれぞれ送付したが、同年七月末日までに明渡方法の計画書が提出されなかつたため、原告の担当者谷内滋樹から同年一一月三〇日及び一二月一九日ころ被告方に電話を入れ、被告の妻から事情聴取をしたが、同女からは、本件住宅の建替時期まで居住しても場塞ぎにはならないのではないか、送付を受けた公社公団のしおりには被告の通勤の便のよい所がないなどとして明渡しについて同意せず、更に、原告の担当課長が被告の勤務先に電話して被告の意向を確認したが、被告も妻と同様の意向であつた。そこで、原告は昭和五七年一月二七日、条例一九条の七に基づき、本件審査会に被告に対する本件制度による明渡請求について意見を求めたところ、同日本件審査会は、被告に対する明渡請求を「可」とする答申をした。

六請求原因8のうち、原告が被告に対し法二一条の三及び条例一九条の七に基づき、昭和五七年二月四日付内容証明郵便により昭和五七年八月三一日限りで本件住宅の使用を取消し、同日限りで本件住宅を明渡すよう通告し、右通告が同月五日被告に到達したことは、当事者間に争いがない。

第二被告の主張について

一被告の主張1(憲法違反)について

1  〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(一) 公営住宅は、昭和二六年に制定された公営住宅法に基づき国及び地方公共団体が協力して、健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を建設し、これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的として(法一条)建設され、この目的に添つて賃貸、管理されてきたものであるが、法には、当初、入居者の収入については公営住宅に入居するための資格の一つとして考慮する規定(法一七条二号)が置かれていただけであつたので、昭和三四年ころには公営住宅の入居者の中に入居後の収入増加により入居基準の収入額を超える収入がある世帯が推定七万四〇〇〇世帯を超える状況が出てきた。他面、住宅難は依然として解消されず、多数の低額所得者が収入の点では法所定の入居資格を有しかつ入居を希望しながら、公営住宅数の不足のためにこれに入居することができないという法の本来の目的に反し、社会的に見ても公平を欠く状況が生じた。これを法の本来の目的に即して是正するため、昭和三四年の法の一部改正(同年法律第一五九号)により、公営住宅に引き続き三年以上居住している使用者で、公営住宅の種類に応じた一定の収入基準を超える収入のある者(収入超過者)に対し、当該公営住宅を明け渡すよう努力する義務を課すとともに、右の収入超過者が引き続き当該公営住宅に入居しているときは、事業主体は、一定の限度内で、条例の定めるところにより割増賃料(本件条例では付加使用料といつている。)を徴収することができるものとされた(右改正により新設された法二一条の二、この法改正に基づき新設された条例一九条の二及び三)。

(二) しかし、右改正後も、明渡しについては努力義務にとどまつたため、改正の目的が必ずしも十分には達成されず、昭和四四年ころには、収入超過者の中には一般の勤労者の所得水準からみても相当高額と認められる所得のある者が相当数存在するにもかかわらず、特に東京等大都市地域における地価の上昇等により公営住宅の用地取得、新規建築が停滞したため、公営住宅の入居資格を有し入居を希望する多数の低額所得者が公営住宅に入居できないという法の本来の目的に反し公平を欠く状況が依然として存在した。そこで、住宅に困窮する低額所得者により多く公営住宅への入居の機会を与えるため、公営住宅以外の住宅に入居し、あるいは住宅を取得しうるだけの十分な収入であると考えられるような相当高額な所得を得るようになつた高額所得者に対しては、その入居している当該公営住宅の明渡しを請求できるようにする本件制度が昭和四四年の法の一部改正(同年法律第四一号)により新設された。

(三) 本件制度は、公営住宅の入居者が当該公営住宅に引き続き五年以上入居している場合において最近二年間引き続き政令で定める基準(この基準は、明渡努力義務及び割増賃料徴収の基礎となつている収入基準のうち第一種公営住宅に係る法二一条の二第一項の政令基準(現在月額一五万三〇〇〇円)を相当程度超えるものでなければならない。法二一条の三第二項)を超える高額の収入のあるときは、事業主体の長は、その者に対し、期限(この期限は明渡請求の日の翌日から起算して六月を経過した日以降の日でなければならない。法二一条の三第三項)を定めて当該公営住宅の明渡しを請求することができるものとし、この請求を受けた者は、右期限が到来したときは、すみやかに当該公営住宅を明け渡さなければならない(その者に病気その他条例で定める特別の事情がある場合において、その者から申出があつたときは、事業主体の長は右期限を延長することができる。)とするものである(昭和四四年の法の一部改正により新設された法二一条の三)。そして、右改正においては、法二一条の四も新設され、事業主体の長は、明渡努力義務を負う収入超過者に対してはその者が他の適当な住居に入居することができるようにあつせんする等、また明渡請求の対象となつた高額所得者に対しては公営住宅以外の公的資金による入居等について特別の配慮をし、これらの者の公営住宅の明渡しを容易にすることが義務付けられた。

そして、右改正法二一条の三を受けて、政令で、当時の全ての勤労者世帯の中で全体の一〇パーセント以内に入るような高額所得者で本件制度の対象としても無理がないと考えられる金額として高額所得者の収入基準額を定め、なお、右改正法施行前からの入居者については、更に高い金額を収入基準額として定めた。

(四) 東京都においても、右昭和四四年の法の一部改正の理由となつた状況は変わらなかつたので、右改正による本件制度の新設を受けて東京都住宅対策審議会への諮問、答申を経た上、昭和四九年に条例の一部改正を行い(同年東京都条例第一二三号)、本件制度に関しては条例一九条の六から九までを新設したが、東京都における高額所得者の立場を考慮し、当時の政令が明渡しの収入基準を昭和四四年六月の改正法施行後の入居者について月額金一四万五〇〇〇円、右施行前からの入居者について月額金一七万四〇〇〇円と定めていたのに対し底上げを図り、年収約五〇〇万円を一応の目安として入居の時期を問わず諸控除後の収入基準を当分の間月額金二六万六〇〇〇円とすることを条例の付則(三項)において定めた。そして、入居者の生活実態に応じた弾力的な運用を図るため公正な機関の意見を反映させる趣旨で本件審査会を新設し(条例二二条の三新設)、知事(事業主体の長)が高額所得者に対する当該都営住宅の明渡請求をしようとするときは、あらかじめ五人以内の学識経験者の委員で構成される本件審査会に意見を求めなければならないものとし、実務の運用としても同審査会の明渡請求「可」の答申を得て明渡請求を行うことにした。また、高額所得者として本件制度により明渡請求を受けた者にその後収入面、支出面の激変があつた場合の救済措置として法(二一条の三第五項)の定める明渡しの期限の延長のほか、東京都独自の措置として、特に知事が必要と認めたときは、明渡しの請求を取り消すことができることとした(条例一九条の八第二項)。更に、明渡しを容易にする措置として、公社公団住宅への優先入居、分譲のあつせんのほか、低金利融資のあつせん等により自力建設の助成を行うこととした。

(五) 昭和四四年の法の一部改正及び昭和四九年の条例の一部改正後においても、東京都においては、地価及び建築資材費等の高騰、都営住宅建設に伴う関連公共事業費の負担増、建築予定地の住民の反対等のため、都営住宅の新築計画は停滞しており、右法及び条例の各一部改正の立法理由とされた前記(一)、(二)の事実は解消されていない。

2  また、〈証拠〉によれば、公営住宅ないし都営住宅の払下げに関して以下の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

(一) 法は、その制定当初「事業主体は、政令の定めるところにより公営住宅又は共同施設がその耐用年限の四分の一を経過したときは、建設大臣の承認を得て、当該公営住宅又は共同施設をその入居者又は入居者の組織する団体に譲渡することができる。」(法二四条一項なお、政令七条)と定め、その譲渡の対価は、公営住宅又は共同施設の建設費用に充てるものとしていた(法二四条二項なお、政令八条)。これは、公営住宅建設後一定年数を経過し、入居者も安定した暁には公営住宅の使命を一応果したと考えられる上、入居者の心情からみて公営住宅の管理上もこれを入居者等に譲渡できる途を開いておくのが相当であるとの考慮から出たものであり、現に法制定後しばらくの間は、行政上も右の規定による公営住宅の払下げについてかなり積極的な姿勢がとられた。東京都においても、昭和二五年以前に建築された木造都営住宅については、入居決定者に対する説明の際、担当者が「五年経てば皆さんのものになりますから大事に使つてください。」などと説明し、昭和三八年ころまでの間にこれに該当する四〇〇〇戸を相当上回る都営住宅の払下げが行われた。このため、後記昭和三四年の法改正前の都営住宅入居者の中には、将来の住宅払下げに期待を持つた者も少なくなく、被告も本件住宅の入居に当たつて右のような説明を受けて同様の期待を抱いた一人であつた。

(二) しかし、既に昭和二八年、二九年ころには、法に定める公営住宅の譲渡処分が今後の都市計画事業の推進、建替、除去等に支障になることがある等の理由で、行政上右譲渡処分について制限的な方針がとられ、右譲渡処分の運用を慎重にし、又は災害公営住宅等特別の理由がある場合に限るとする建設省住宅局長の各都道府県知事あての通達が発出された。そして、昭和三四年の収入超過者に対する明渡努力義務等を導入した前記法の一部改正においては、法二四条一項の公営住宅の譲渡処分は、その耐用年数の四分の一を経過した場合で「特別の事由があるとき」に限定するよう改められ、また公営住宅の「敷地」についてもその入居者等への譲渡については法二四条一項の要件にかからしめることとする改正が行われた(法二四条一項の改正)。東京都においても、右通達及び法改正を受けて、都営住宅の建替、土地の有効利用、不燃化の促進等のため昭和三九年以降は原則として都営住宅の払下げは行わないことに方針が変更された。

(三) 右の公営住宅の譲渡処分の制限に関する昭和三四年の法改正及びその前後の譲渡処分の制限ないし原則的中止に関する国及び東京都の方針転換については、昭和三四年の法改正、昭和四四年の前記法改正及びこれを受けた昭和四九年の本件条例の改正の法案及び条例案審議の際、収入超過者に対する明渡努力義務、高額所得者に対する本件制度の導入と合わせて、それが入居者の期待を裏切りその居住の安定を損うのではないかとの見地からも衆議院及び参議院の各建設委員会、東京都の住宅港湾委員会において質疑が重ねられ、昭和四四年の法改正審議における衆議院建設委員会(同年四月一八日)においては、高額所得者の明渡請求制度の実施に当たつては、入居者の収入額の的確な認定、転居先に対する特別の配慮等によつてその運用の適切を期することとする等の付帯決議が、参議院建設委員会(同年五月一五日)においては、収入超過者又は明渡しの請求を受けた者に対する他の住宅のあつせんについてその受入体制を十分整えるとともに、強制的な明渡しは極力避けることとする等の付帯決議が、また東京都住宅港湾委員会(昭和四九年一〇月九日)においても、収入調査等については厳正かつ公正に行い、明渡請求については納得を得て行うよう配慮することとする等の付帯決議が付せられて、前記のとおり改正法、改正条例がそれぞれ制定された。

なお、右公営住宅、都営住宅の払下げ問題については、右の法改正及び行政運用方針の転換を不当とする右昭和三四年法改正前からの入居者らが中心となつて「東京都住宅払下連合会」なる組織を作り、明渡請求拒絶、払下げ陳情等を続けており、被告もその参加者の一人である(但し、実際の行動はその妻が行つている。)。

3  右1及び2で認定した立法の経緯等を前提に被告の憲法違反の主張について判断する。

本件制度により、公営住宅居住者は、その収入が一定の基準を超えた状態が二年間続くことにより明渡請求の対象となるのであるから、一般の借家人よりも居住の安定性、継続性の点で不安定な地位に置かれることは否めない。しかし、仮に、居住の安定、継続という利益が被告主張のように憲法上の基本権であるとしても、その性格上憲法一二条、一三条及び二九条等からみて公共の福祉による制約を免れないと解せられるところ、法一条所定の目的のために建設、賃貸、管理される公営住宅の趣旨、性格からして、公営住宅の入居者は、公共の福祉のために必要かつ合理的な範囲内で一般の借家人と異る制約を受けることもやむをえないものであり、このような制約は憲法上も許容されると解される。そして、本件制度の立法理由は、前記1(一)及び(二)認定のとおり、法一条所定の本来の目的に反し、社会的にも不公平な状況を是正するという法の趣旨性格に添つた合理的なものであり、かつ、前記1認定の事実、特に本件制度立法化に至る経緯、公営住宅新築による住宅難の解消が依然として困難な状況、本件制度が公営住宅以外の住宅への入居等が十分可能と考えられる相当高額な収入が二年間継続することを明渡請求の要件とし、他の住宅や融資のあつせん等明渡しを容易にする措置をとるべきこととしていることを総合すれば、本件制度の立法目的を実現するため右収入基準を超えた入居者の明渡しを求めることも必要かつやむをえないものと認められる。前記2で認定したとおり、法制定当時かなり積極的に考えられていた公営住宅の入居者等への譲渡の方針がその後の社会的諸要因のため変更され、そのことが入居者、とりわけ昭和三四年の法改正による明渡努力義務及び公営住宅の譲渡処分の制限新設以前の一部の入居者の期待に反しその居住の安定と継続を損う結果をもたらしていることは否定できないが、これらの事情をもつてしても、右の判断を左右するには足りず、結局、本件制度によつて公営住宅居住者が受ける不利益は、公共の福祉のために必要かつ合理的な範囲内のものであり、また、国又は東京都の立法機関が限られた財源の下に法一条所定の目的を達するための手段の選択に当たつてその裁量の合理的な範囲を逸脱したともいえないから、本件制度を憲法一二条、一三条及び二九条に違反するとする被告の主張は、採用できない。

二被告の主張2(形式的要件)について

1  まず、本件制度における収入概念、計算方法等が不明確であるとする被告の主張について判断する。

(一) 〈証拠〉を総合すれば、以下の事実が認められ、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

本件制度による明渡請求の対象となる「最近二年間引き続き」基準を超える「高額の収入」があるもの(法二一条の三第一項、条例一九条の六)については、条例一九条の五第一項により、知事が都営住宅の使用者からの収入報告(条例一九条の四)その他の資料に基づき認定した額によるものとされている。右収入認定の時期、基準日について法、条例等に直接の定めはないが、右使用者に課せられる収入報告義務について規則二一条一項が毎年一一月三〇日において引き続き三年以上当該都営住宅を使用している者に対しその年の六月三〇日を期限として収入報告を求めていること、及び条例一九条の三所定の収入超過者に対する付加使用料の徴収開始時期が規則二〇条により収入報告期限の属する年の一二月からと定められていることから、毎年一一月三〇日には収入認定を確定させる必要があるが、他方、条例一九条の五第二項が、収入認定の通知(条例一九条の六の高額所得者に対する通知の場合を含む。)を受けた使用者が、その通知を受けた日から三〇日以内に、その収入認定に対して意見を述べることができると定めているため、遅くとも一〇月三一日には収入認定通知が使用者に到達している必要がある。これらの収入認定手続を考慮すると、結局、条例は、一〇月三一日を一応の基準として(実務上は、収入認定通知発送後到達までの若干の日数だけ一〇月三一日より前に)収入認定を行い、これを使用者に通知して、これに対する使用者からの意見申出があれば所要の調査、修正をして一一月三〇日をもつて収入認定を確定すべきものと定めているのであり、したがつて「最近二年間引き続き」の収入とは、右収入認定確定日から遡る過去二年間の収入を定めているものと解される。もつとも、右収入認定に供される資料は、使用者からの収入報告(条例一九条の四、規則二一条)その他の資料である(条例一九条の五第一項)が、使用者からの収入報告がある場合も、原告独自の調査による場合も、基礎資料となる源泉徴収票、税務官公署の証明書等が前年度の収入についてのものしか入手できないため、原告の実務処理としては、原則として、右収入認定基準日の属する年の前年度の所得税に係る収入(前年一月一日から一二月三一日までの収入)を基準として、また、控除対象の扶養親族数等については、原則として収入報告及び公的証明書の記載により当年一〇月三一日の一応の基準日現在の数として収入認定を行い、その通知に対する使用者の意見申出等により、使用者の失職、控除対象扶養親族数の変動等があつて前年度の所得税に係る収入及び認定通知の際算定の基礎とした扶養親族数等を基準として収入認定確定日前一年間の収入認定をすることが相当でない特段の事情が公的資料により認められるときは、先の認定額を改め(条例一九条の五第三項)、付加使用料徴収との関係では一二月一日以降においてもこれを改める(条例一九条の五第四項、第五項)という処理をしている。

(二) 本件において、原告は昭和五五年一〇月末日を一応の基準として被告の過去二年間の収入認定をしたが、これを被告に通知したのは昭和五六年一月二〇日付、同月二二日到達の書面によつてであることは前記第一の三、四認定のとおりであるが、〈証拠〉並びに前記第一の三の認定事実によれば、使用者から収入報告がない場合等に収入認定の手続が遅れ、当該収入認定日の属する年の翌年に通知を発送せざるを得なかつた例があること、その場合にも条例一九条の五第二項の三〇日間の意見申出期間を経た上、規則二〇条の定めにかかわらず右意見申出期間を経た翌月分から認定にかかる収入を前提とした付加使用料を徴収する扱いをしていること、本件において、被告は、付加使用料との関係では既に昭和五三年より以前から収入超過者に対する条例所定の最高率の付加使用料を支払うべき場合に該当しこれを支払つてきており、昭和五六年一月二二日の原告からの収入認定通知に対しても具体的な意見申出をしなかつたことが認められるから、原告が昭和五五年一〇月末日を一応の収入認定基準日とし、同年一一月三〇日で確定したものと解すべき収入認定額を翌年一月に被告に通知したことは、被告に何ら不利益を与えるものではなく、また、被告に対する右の収入認定手続が法、条例及び他との取扱い上、何ら恣意的であるとか不公平であるとかはいえない。

(三) 右(一)(二)認定事実によれば、本件制度における収入概念、収入認定の基準日、その計算方法は、法及び条例上明確であるというべきであり、前記第一の三の認定事実及び〈証拠〉によれば、原告の収入認定の実務処理上、収入認定に用いる資料の範囲、収入報告があつた場合の客観的資料との対照の実行の有無、収入認定通知の発送の時期等について僅かの取扱いの違いがあることが認められるにせよ、それは大量処理の事務負担を考慮すればやむを得ない範囲のものというべきであり、これを不合理、不公平と評価することはできないから、結局、本件制度における要件が、法、条例及びこれに基づく運用上不明確であることを前提として本件制度に基づく明渡請求が運用違憲、違法であるとする被告の主張は、採用できない。

(四) なお被告は、昭和五四年度の収入認定額は、長女万里又は母喜美の扶養の事実、もしくは原告の収入認定実務の運用に照らし、控除対象の扶養親族数を三名として計算すべきであると主張するが、これが失当であることは、前記第一の三で認定したとおりである。

2 被告は、本件制度による明渡請求の形式的要件である「高額所得者」であることが、収入認定時のみならず明渡請求時又は訴訟による場合はその口頭弁論終結時まで存続することが必要であると主張する。しかし、法、政令及び条例の定める本件制度による明渡請求の要件は、前記第二の一の1(三)及び(四)認定のとおりであり、被告主張の事項は右要件として定められていないものと解されるから、被告の右主張は失当である。

三被告の主張3(実質的、手続的要件)について

1 被告は、本件制度による明渡請求については、最近二年間引き続いて収入基準を超過する高額収入があるという要件のほかに、実質的要件として、収入基準超過の程度、居住者の退職の見込等の個別的、具体的事情を斟酌すること、及び手続的要件として本件審査会における十分な審査を経ることが必要であり、かつ、この実質的、手続的要件は、明渡請求時はもちろん訴訟による場合はその口頭弁論終結時まで充足されることが必要であり、これを欠く本件明渡請求は運用違憲又は違法である旨主張する。しかし、法、政令及び条例の定める本件制度による明渡請求の要件は前記第二の一の1(三)及び(四)認定のとおりであり、被告主張の事情が原告の収入認定実務の運用上ある程度斟酌されることがあるとしても、それは独立の要件として定められているものではないと解せられるから、被告の右主張は、右事項の充足の有無、その存続の有無等その余の点につき判断するまでもなく失当である。

また、本件審査会における十分な審査の点については、条例一九条の七所定の本件審査会への求意見が手続要件であり、原告が本件について明渡請求「可」の答申を得た上本件明渡請求に至つたことは前記一の1(四)及び第一の五に認定したとおりであるところ、それ以上に本件審査会の審査の十分性が本件制度による明渡請求の要件にはなつていないと解せられるのみならず、本件審査会の原告に対する意見が手続的に又は実質的に違法又は不当であつたとの立証もないから、この点の被告の主張もまた失当である。

2 被告は、居住権保障の観点から、本件制度による明渡請求にも借家法一条の二の正当事由を具備する必要がある旨主張する。なるほど、公営住宅についても、入居者が使用許可を受けて事業主体との間に使用関係が生じた後においては、その法律関係は基本的には私人間の家屋賃貸借関係と異なるところはなく、公営住宅法及びこれに基づく条例が特別法として民法及び借家法に優先して適用され、法及び条例に特別の定めがない場合に民法、借家法の適用があると解される(最高裁判所第一小法廷昭和五七年(オ)第一〇一一号、昭和五九年一二月一三日判決、民集三八巻一二号一四一一ページ参照)が、本件制度による明渡請求は、条例二〇条一項第六号の知事の都営住宅管理上の必要に基づく明渡請求とは異なり、前記第二の一の1認定のとおり、法一条所定の目的のために建築、賃貸、管理されている公営住宅の趣旨、性格から特別に定められた事業主体からの使用関係の解約に基づくものであり、その要件も前記第二の一の1(三)、(四)及び同二の1に認定のとおり公営住宅法上及び条例上明確に定められており、法及び条例上借家法一条の二の正当事由ないしこれと同内容の事項を要件としていないことが明らかであるから、右事由の具備を必要とする被告の主張はその前提を欠き、その充足の有無等について判断するまでもなく、失当である。

四被告の主張4(行政に対する信頼の保護ないし信義則)について

1 公営住宅のいわゆる払下げに関する法の改正の経緯、及びその行政上の運用方針が変更された経緯は、前記第二の一の2に認定のとおりである。

また、〈証拠〉によれば、公営住宅の譲渡処分を従前より制限的にした昭和三四年の法改正後、また行政運用上大都市においては原則的に払下げを行わなくなつた昭和三九年以降においても、本件制度が新設された昭和四四年までの間においては、原告は、都営住宅入居者に対する広報パンフレットにおいて、「収入額が高いと「都営住宅から追い出される(明渡請求される)」と心配している方がありますがほんとうですか」「そのようなことは絶対にありません。(中略)ご心配は無用です。」との想定問答を掲載し、その理由として、法にも条例にも収入超過者に対して明渡請求できる根拠が全くないことをあげていたことが認められる。

更に、〈証拠〉によれば、被告の家族は昭和二七年本件住宅の使用許可を得て入居できたことを喜び、入居当時の原告の担当者の説明から本件住宅が将来払下げられることに期待を持ち、その後本件住宅の属する一二戸の団地住民らと協力して入居者の労力と若干の費用負担において団地内の道路整備、共同井戸の維持改善を図り、本件住宅の保全に努めてきたほか、とくに被告の妻は、団地内の住環境整備の活動から子らの学校のPTA活動、更には練馬区の母親を中心としたグループに参加して、小児マヒワクチン獲得運動、集会所や都立高校の設置、学校給食改善、公的総合病院の設置等の問題について、熱心に、学習、陳情、要請等の活動を続けてある程度の成果と満足感を得、本件住宅とその地域社会から離れ難い心情になつていること、被告は、本件住宅入居後、東京大学教養学部物理学教室助手、上智大学工学部助教授、カイザース、ラウテルン大学(西ドイツ)客員教授等を経て、昭和五七年四月から上智大学理工学部物理学科長の職にあり、本件収入認定時以降も順調に所得は増加して生活は安定しているが、いずれ定年を迎えるため、賃料の低い本件住宅に定住したいということのほか、被告の妻の右地域活動の継続の希望と、本件地域から離れたくないとの心情を支持しているらしいことが認められる。

2 右1認定の事実を前提として、被告の主張4について判断するに、なるほど、公営住宅の払下げ問題についての前記法の改正、国及び東京都における行政運用の方針変更により、とくに右法改正前からの一部入居者の定住の期待を裏切つたことがあるとしても、そもそも公営住宅の入居者等への譲渡処分は、法制定当初から一貫して建設大臣の承認事項であつて、運用上も譲渡処分が原則とされていたわけでもなかつたのであるから、原告の担当者が、前認定のように被告の入居当時将来の払下げについて話をしたとしても、また当時このような説明が一定の建築年次の都営住宅の入居者に対し一般的になされたことがあるとしても、更には、昭和三四年の法改正による収入超過者に対する明渡努力義務導入後昭和四四年の本件制度新設までの間に、原告が都営住宅入居者に対するパンフレットによつて、収入超過者に対しても収入超過を理由に明渡請求をすることは絶対にない旨の広報をしたとしても、これらは、それぞれその当時における法、条例に基づく都営住宅の管理についての方針のもとに、担当者が行政運用の見通しを述べ、ないしは当時の制度に基づく説明をしたにすぎないと見るべきであつて、被告に対し原告が法的拘束力を伴う意思表示や約束をしたものと見ることは到底できない。のみならず、被告の入居後三〇年以上を経過し、その間昭和三四年及び昭和四四年の法改正により、国会及び東京都の議会における多くの論議を経て、収入超過者に対する明渡努力義務から高額所得者に対する本件制度への立法、公営住宅の譲渡処分を制限する立法が行われ、本件制度の新設に当たつては前認定のように明け渡しを容易にする措置についても合わせて立法上の手当てが行われており、これらの立法が前記第二の一に認定のとおり公営住宅法一条所定の目的実現のため必要かつ合理的なものであると認められるものである以上、公営住宅払下げ問題は法的には既に決着ずみというべきであつて、払下げの約束に対する信頼を法的に保護すべきことを前提として本件明渡請求を争う被告の主張は、右事実関係のもとでは失当というほかはない。

また、被告の収入状況、被告及び家族の生活状況は、前認定のとおり現在むしろ安定しており、近い将来の現実的不安があるとも認められない上、本件住宅を明け渡したくないとする理由もかなり観念的、心情的なものであつて、これらを総合勘案しても本件明渡請求が信義則違反ないし権利濫用にわたるとは到底いえず、本件全証拠によつてもこれを認めるに足りないから、この点の被告の主張も理由がない。

第三結論

以上によれば、本件明渡請求は法及び条例の定める要件を充足しており、被告の本件住宅の使用許可は昭和五七年八月三一日に限り有効に取り消されたものと認められるから、被告はこれを明け渡すべきであり、かつ、請求原因3記載の増築部分及び設置建物については、条例一八条の規定により本件住宅明渡しと共にこれを収去すべき義務がある。

よつて、原告の本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

なお、仮執行宣言の申立てについては、相当でないから、これを却下する。

(裁判官荒井史男)

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